Minako Amamiya

雨宮美奈子、美徳はよろめかない

大人になつてゐる



ふと小学生の頃を振り返ってみれば、「嘘をつく」という行為はまるで世界中を敵にまわすような感覚があったのを覚えている。嘘をつくこと、それは大変深刻なものであり、自分がついた嘘がばれてしまえば皆がわたしをひやりとした目で見て嫌いになってしまうのではないかという程であった。
 
『世界がわたしを嫌いになってしまう!』
 
嘘と言っても小さいものから大きなものまであるのだが、どれであっても私はそうだと思っていたのだから、今思えば自分は少々言葉に対して敏感すぎる潔癖性であったのではないか、と思う。
 

 
気がつけば、わたしは大学生になった。春からは大学三年生である、いよいよ就職活動などもちらほらと視野に入れなければならない神経の使う季節までをもむかえた。
さて今の自分は「嘘をつく」という行為に対してどう思っているだろうか。いやはや現在、あのとき程の罪悪感は無いのである。それもそのはずで、お世辞を言わなくてはならないことなんてしょっちゅうな日常であり、好きでもない教授に単位欲しさに「さすがです」なんて白々しい言葉を投げかけて、行きたくなくて予定を入れた参加出来ない飲み会には「本当は行きたいけれど」などと嘘をつくことをせねば生きてゆけない。これは嘘というよりも世渡りのための手段、と言えるであろうが。しかしそれでも、あのとき程は無いにしろ、嘘をついて泣いてしまうことがまだまだある。人よりも、多く。
 
 
毎日、小さな嘘を積み重ねてわたし達は生きている。嘘をつく度に胸の奥がずきりと痛む、鎖骨の奥で小さく小枝が折れるような音がする。ぽきり。そして目が、つん、とする。
 
ひとは笑いながら言う、「美奈子ちゃん、そんなことでいちいち落ち込んでいたら生きてゆけないわよ」と。しかしわたしは思う、「いつの間にあなた達は慣れることが出来たの!」と。
 
 
二十一歳になりました。気がつけば周りの同級生は世渡り上手になりました。いつの間にか、わたしだけが未だに下手な作り笑顔を見透かされながら生きています。
 

 
わたしは正直、戸惑っている。
歩幅を合わせて成長してきたと思っていた部分が追いついていないような、居心地の悪い恐怖を覚えている。ひとに比べて容易に傷つきやすい自分の潔癖性な心にもうんざりしている。未だに冗談を冗談だと理解出来ずに真剣に受け止め、こんな年齢になっても泣いてしまうことも多い。
しかし小学生の時の傷つきやすさ、世渡りの下手さは確かに互角であったはずだ。それがいつの間にこんな差を作りだしているのだろうか。わたしは何か、必ずや皆が乗り越えてきたような成長の場や修羅場かなにかを気づかずに通過してきてしまって、それを学ばずにここまで来てしまったのではなかろうかと恐くもなる。もしもこれを明確に言語化して教えてくれるひとがいれば、是非わたしに教えてほしい(絶賛募集中)。
  
ああいっそ、自分を正当化したい。世の中に疑問を投げかけたい。
何故に世の中はこんなにも、純粋に傷つきやすく生きる人間に不利であろうか、と。もっと真っすぐに生きている人間に生きやすい世界を創ってくれやしないか。いやはや、負け犬の遠吠えのようなものにしかならないが。
 

成人式を迎えたからといってその日から急に大人、にはなれない。わたしは二十一歳になったが全く強い人間になれていない、うまく生きているとも言い難い。失敗も多い。しかし周りを見渡せば、いまはお世辞も上手で将来のこともしっかりと考えている、冗談を冗談だと判断して瞬時に盛り上げることの出来る同世代のなんと多いことか。

ひとによってはこんなわたしを「感受性が豊かなんだよ」「その年齢になってもそんな君は魅力的だよ」と励ましてくれるひともいる。しかし感受性が強すぎるのも、ひとを容易に信じてしまうのもいつか大きな裏目に出てしまう気がしてまた、恐いのである。それどころかそんな無邪気さは時に、気づかぬ間にひとを傷つけてしまうことさえあるだろう。どうしても悲観ばかりを、してしまう。
 
 
 
これを今読んでいるあなたに、問いたい。
あなたはいつ、大人になったのでしょうか。
いつの間に、小さなことでは泣かない術を身につけたのですか。
どうやれば、ひとに対して取捨選択を行えるようになるのですか。
やはりこんなわたしでも、社会には出なきゃいけないのですよね。
本当にわたしは、やっていけるのでしょうか。
 
こんなのはやはり、ただの甘えた若者の戯言に見えるであろう。
しかしわたしはひたすらに、真剣である。どうにかこうにか少しずつ、この面に関しても他の多くの面に関しても成長し、社会に出るまでに残されたこのモラトリアムで出来る限りは大人になった、と言えるようにするつもりである。
 
 
あらやだこの日記、すごく自慰的になってしまった!
ま、いいか。